PearPC(x86用PowerPCエミュレータ)上のMac OS X環境
PearPCはオープンソースのPowerPCアーキテクチャエミュレータでx86(互換)マシン上で動作します。
PearPCのPearとは「梨」の意味でPearPCはペアPCと読みます(ペアーPCと読むこともあります)。
PearPC 0.1は2004年5月10日に実験版が初期リリースされ、PCユーザのみならずMacユーザ等の注目を浴びました。
PearPC上ではMac OS X等が動作します。
現状のPearPCは速度的な問題以外に、周辺機器をほとんどサポートしていないという問題もあります。
しかし、従来はMacマシン本体が無い限りMac OS Xを試すことはできませんでしたが
PearPC誕生のおかげでDOS/VマシンがあればそのOS(Windows,Linux)上でMac OS Xを簡単に試すことができます。
つまりPearPCはMac OS X(ソフト)を先に購入してからMacマシン(ハード)を後で購入するという形を実現してくれる画期的なソフトです。
※MacマシンにはMac OS Xがプリインストールされているのが普通ですが今後はOSなしモデルも多く誕生するかも知れません。
ここではPearPC上で動作するMac OS X v10.3(Panther)の環境について紹介します。
尚、PearPCを動作させたx86マシン環境は以下の通りです。
- CPU:Pentium 4 1.7GHz
- メモリ:640MB
- VGAカード:GeForce3
- モニタ:最大解像度=1920x1440
- サウンドカード:SoundBlaster Live! Value
- LANカード:Intel PRO/100+ Management Adapter
- OS:Windows XP Professional SP1
- Windows XPのファイルシステム:NTFS
PearPC自体のインストールやPearPCにMac OS Xをインストールする手順についてはPearPCサイト等に詳細な説明がありますのでここでは省略します。
(1)PearPC 0.1上のMac OS X
- PearPCのブート画面
実寸画像はこちらです。
- Mac OS Xのデスクトップ
実寸画像はこちらです(800x600)。
- 動作速度について
- システムプロファイラの表示
このMacについてからシステムプロファイラの情報を表示してみました。
動作速度は「0」と表示されてしまいました。
- CocoaBench(ver 1.2.3)の実行結果
PowerPC G4 1GHz(メモリ:768MB)でのCocoaBenchのトータル値14.38に対して、
PearPC 0.1(メモリ:128MB割当)でのCocoaBenchのトータル値は0.21でした。
単純比較でPearPC 0.1ではPowerPC実機の約70倍遅いという見方もできます。
これはあくまでもベンチマーク上の速度比較結果であり、軽いアプリケーション(テキストエディタ等)では
非常に遅いという感じはしませんでした。
- Safariの動作
PearPC 0.1ではネットワークが未サポートでありSafari(Webブラウザ)を使う意味はありませんが、
Safariの起動から「サーバが見つかりません」となるまで55秒かかりました。
http://livepage.apple.co.jpに接続に行くまでには約40秒かかりました。
ちなみにPowerPC実機ではSafariの起動からhttp://livepage.apple.co.jpの表示完了までは5秒以下で済みます。
Safariの単純比較ではPearPC環境は実機より11倍遅いという結果となっていますが、
PearPCでネットワークがサポートされた段階ではSafariの起動に時間はかかっても
リンクナビゲーション時間はそれほどは遅くはならないのではないかと期待できます。
- 画面表示速度
Dockについては再描画にかなりもたつきが感じられます(下図参照)。
- 周辺機器について
PearPC 0.1ではキーボード、マウス以外の周辺機器は使用できません。
(日本語)キーボードについては「=」の入力ができず他のファイル中の「=」をコピー&ペーストする以外に方法はありません。
マウスについてはマウスのホイール機能は使用できません。
尚、外部からのファイル取り込みはCD-ROM(イメージ)からの入力で対応できます。
(2)PearPCのリリース歴
- 2004/05/10:Ver 0.1 (最初の実験版リリース)
- 2004/05/14:Ver 0.1.1(バグフィックス版)
- 2004/05/20:Ver 0.1.2(3c90xサポート)
- 2004/06/15:Ver 0.2 (RealTek-8139ネットワークカードサポート、実行時のビデオモード変更機能サポート)
- 2004/08/13:Ver 0.3 (SDLサポートによる表示速度の向上、フルスクリーンモードサポート)
- 2004/09/05:Ver 0.3.1(バグフィックス版)
(3)PearPC 0.3.1でのネットワーク利用
Windows 2000/XP対応のOpenVPNを導入するとPearPCでネットワーク利用ができるようになります。
PearPCでのネットワーク利用手順の流れは次のようになります。
実際のホストOSのネットワーク環境によってネットワーク設定方法は変わるためここでは一例という扱いでしかありません。
- ホストOS(Windows XP)へのOpenVPNの導入
OpenVPNではTAP-Win32 Virtual Ethernet Adapter(TAP-Win32 Adapter V8)もインストールされます。
- OpenVPNに含まれるTAP-Win32 Adapterの設定
TAP-Win32 Adapter用のローカルエリア接続のTCP/IPを次のように設定します。
IPアドレス:192.168.0.1
サブネットマスク:255.255.255.0
デフォルトゲートウェイ:無し
優先DNSサーバー:これは環境依存
- ホストOSのネットワークに対する「インターネット接続の共有」設定
ホストOSの実際のネットワークカードに対するローカルエリア接続定義のプロパティで
「ネットワークのほかのユーザーに、このコンピュータのインターネット接続をとおしての接続を許可する」にチェックを入れます。
更に、ホームネットワーク接続のプルダウンメニューからTAP-Win32 Adapter用のローカルエリア接続定義名を選択しておきます。
- PearPCでのネットワークの有効化設定
PearPCの設定ファイル(デフォルトファイルはppccfg.example)では「pci_rtl8139_installed = 1」としておきます。
- ゲストOS(Mac OS X)側のネットワーク設定
PearPCでMac OS Xを起動し、システム環境設定の「ネットワーク」を開くと
「PCI Ethernet スロット pci10ec,8139、ポート 4」に対して「新しいネットワークポートが検出されました」と表示されます。
Mac OS X側のTCP/IP設定では次のように指定しておきます。
IPアドレス:192.168.0.110(例です)
サブネットマスク:255.255.255.0
ルータ:192.168.0.1(TAP-Win32 Adapter用ローカルエリア接続定義で指定したIPアドレス)
DNSサーバ:これは環境依存
上記を指定して<今すぐ適用>ボタンを押します。
これでルータ経由でのWebアクセス(Safari利用)ができるようになります。
- ゲストOS(Mac OS X)側の共有設定
Mac OS Xのシステム環境設定の「共有」を開いてWindows共有、パーソナルWeb共有、FTPサービス等を開始しておきます。
特にWindows共有できめ細かなアクセスコントロールを行いたい場合は/etc/smb.confの内容をカスタマイズしておきます(smbd restartも実行)。
- ゲストOS(Mac OS X)でのネットワーク利用
とりあえずSafariを使用してWebアクセスしてみました。
実寸画像はこちらです。
- ホストOS(Windows XP)からゲストOS(Mac OS X)への各種接続例
(4)PearPC 0.3.1の動作速度について
- 「このMacについて」の表示
「このMacについて」を表示するとプロセッサは600 MHzと表示されました。
この600 MHzというのは固定ではなくホストOS側の環境や負荷状態等によって変動します。
- CocoaBench(ver 1.2.3)の実行結果
PowerPC G4 1GHz(メモリ:768MB)でのCocoaBenchのトータル値14.38に対して、
PearPC 0.3.1(メモリ:128MB割当)でのCocoaBenchのトータル値は0.99でした。
単純比較でPearPC 0.3.1ではPowerPC実機に比べてまだ約15倍遅いという見方もできます。
【補足1】
ちなみに別マシン(CPU:Pentium 4 2.66GHz, メモリ:1GB)上でPearPC環境Mac OS XのCocoaBenchを実行してみました。
PearPCのメモリがデフォルトの128MBの場合のCocoaBenchトータル値は1.71でした。
更にPearPCのメモリを512MBに設定した環境でのCocoaBenchトータル値は2.29でした。
(このMacについてでのプロセッサは944 MHzと表示されますが体感速度は1GHzのPowerPC実機に比べて雲泥の差です)
単純比較でこの場合のPearPC 0.3.1はPowerPC実機に比べて約6倍遅いというレベルまで速くなっているという見方もできます。
尚、PearPCのメモリを多く設定するとCocoaBenchトータル値は大きく向上するようです。
【補足2】
更にもう一つの別マシン(CPU:Pentium 4 3.6GHz, メモリ:2GB)上でPearPC環境Mac OS XのCocoaBenchを実行してみました。
PearPCのメモリは1GBにして場合のCocoaBenchトータル値は3.79でした。
単純比較でこの場合のPearPC 0.3.1はPowerPC実機に比べて約4倍遅いというレベルになっています。
この程度なら体感速度も1GHzのPowerPC実機並みであり、よほど重いソフトでない限りは十分利用できます。
- Safariの動作
PearPC 0.3.1ではSafariの起動からhttp://livepage.apple.co.jp(http://apple.excite.co.jp)のページが完全に表示されるまでに約60秒かかりました。
ちなみにPowerPC実機ではSafariの起動からhttp://livepage.apple.co.jpの表示完了までは5秒以下で済みます。
Safariの単純比較ではPearPC環境は実機より12倍遅いという結果となっています。
尚、リンクを辿ってリンク先ページが完全表示されるまでには約5〜15秒で済みます(画像の量に依存)。
光ファイバ回線環境での通信速度測定はこんな結果となりました。
- 画面表示速度
Dockについては再描画のもたつきはほとんど感じられませんでした。
マウスによるDockアイコンの拡大表示も比較的スムーズでした。
(5)Classic環境について
PearPC 0.3.1上のMac OS XでClassicアプリケーションを起動してみました。
結果的にはClassic環境の起動そのものが途中でハングアップし、Classicアプリケーションの実行には至りませんでした。
- SimpleTextの起動
- Classic環境の自動起動
以下の画面が表示されたまま先に進みません。
PearPCを起動したコマンドプロンプトには次のエラー表示が繰り返されていました。
「JITC Warning: Programming exception: 0008000 7c840415」
※PearPC 0.2の非JITC版を使用していた時はClassic環境の起動中にPearPC画面が飛んで消失してしまうという現象になっていました。