Lotus Notes 8 on Linux(Vine Linux 4.2編)

2007年8月17日に英語版Lotus Notes 8 on Linuxがリリースされました。
※英語版でも日本語が利用できます。

また2007年12月25日には Vine Linux 4.2がリリースされました。
Vine Linux 4.xはその柔らかみのあるふわっとしたデスクトップデザイン(Vineテーマ、フォント等)が大きな魅力の一つとなっています。
ワールドワイド的にはRed Hat Enterprise Linux, SUSE Linux Enterprise, Debian GNU/Linuxが御三家のLinuxディストリビューションとなっており、
メジャーな企業向けソフトウェアはそれらのディストリビューションを主なサポート対象としています。
しかしVine Linuxのパッケージ構成(rpmパッケージのバージョン構成)は御三家のLinuxディストリビューション系とは異なった独自のものになっています。
そのためメジャーな企業向けソフトウェアをVine Linux環境に導入する場合は御三家の場合よりも手数が若干増えるケースがあります。
そのケースに該当する企業向けソフトウェアとしてここではLotus Notes 8 on Linuxを扱ってみます。

Vine Linux 4.2でLotus Notes 8 on Linuxを利用するための大きなポイントは以下の二点です。
(1)libgcc 4.1以上の環境整備
Lotus Notes 8 on Linuxを利用するにはlibgcc(Cコンパイラランタイムライブラリ) 4.1以上が必要です。
Vine Linux 4.2のlibgccは3.3.6ですのでlibgcc 4.1以上にアップグレードしなければなりません。
しかしVine Linuxプロジェクトでは現状libgcc 4.1以上のパッケージは公開していません。
これについては他のディストリビューションからlibgcc 4.1以上のパッケージを借用するのが近道です。
(2)日本語環境整備
Vine Linuxの日本語利用環境は御三家のLinuxディストリビューション以上に整備されています。
それにもかかわらずVine Linux 4.2上のLotus Notes 8 on Linuxでは日本語入力ができません。
またLotus Notes 8 on Linuxで日本語利用環境の条件もベールに包まれています。
これについても日本語入力できる他のディストリビューションのパッケージを借用するのが近道です。

それでは比較的安易な方法でLotus Notes 8 on LinuxをVine Linux 4.2環境に導入して利用する手順を以下に紹介します。

  1. Vine Linux 4.2インストールの前提条件
    Vine Linux 4.2のインストールにおける「インストールの種類」では<全て>を選択します。

  2. rootのデフォルト言語設定
    Vine Linux 4.2でのデフォルトのロケールは「ja_JP.eucJP」です。
    そこでグラフィカルログイン画面(GDM)の言語オプションで「日本語 (UTF-8)」を選択してログインします。

  3. libgcc 4.1.1の導入(libgcc-3.3.6からgcc-4.1.1へのアップグレード)
    CentOS 5にはlibgcc 4.1.1関連のパッケージが付属していますのでそれを以下の手順で導入します。
    ※CentOS 5はLotus Notes 8 on Linuxが正式サポートされているRed Hat Enterpise Linux 5互換のディストリビューションです。

    まずCentOS 5のインストールDVDをセットし、次のようにコマンド実行します。
    (パッケージの依存関係解決のため一見libgccに関係の無さそうなパッケージ操作も含まれています)
    # mount /dev/cdrom /mnt/cdrom
    # cd /mnt/cdrom/CentOS
    # rpm -Uvh tzdata-2006m-2.fc6.noarch.rpm
    # rpm -e build-essential
    # rpm -e gcc-c++-3.3.6
    # rpm -e libtool
    # rpm -e gcc
    # rpm -e glibc-devel
    # rpm -Uvh glibc-common-2.5-12.i386.rpm glibc-2.5-12.i686.rpm ※2個のrpmを同時指定します。
    # rpm -Uvh binutils-2.17.50.0.6-2.el5.i386.rpm
    # rpm -ivh glibc-headers-2.5-12.i386.rpm
    # rpm -ivh glibc-devel-2.5-12.i386.rpm
    # rpm -Uvh libgcc-4.1.1-52.el5.i386.rpm ※/lib/libgcc_s.so.1のリンク先が/lib/libgcc_s-3.3.6.so.1ではなく/lib/libgcc_s-4.1.1-20070105.so.1になります。
    # rpm -ivh libstdc++-4.1.1-52.el5.i386.rpm ※本パッケージはNotesクライアント起動に必要な/usr/lib/libstdc++.so.6を含みます。
    # rpm -Uvh cpp-4.1.1-52.el5.i386.rpm
    # rpm -ivh libgomp-4.1.1-52.el5.i386.rpm
    # rpm -ivh gcc-4.1.1-52.el5.i386.rpm
    # cd
    # umount /mnt/cdrom
    # rpm -qa|grep gccで以下の表示となることを確認します。
    gcc-cpp-3.3.6-0vl7 ※削除不要パッケージです。
    libgcc-4.1.1-52.el5
    gcc-4.1.1-52.el5

    尚、この時点でSynapticパッケージマネージャを起動すると下記警告(不整合パッケージ検出)が出ます。
    You have 2 broken packages on your system!
    Use the "Broken" filter to locate them
    本警告への対処のために「apt-get --fix-broken install」を実行すると必要なパッケージ(libstdc++)が削除されてしまうため実行してはいけません。

  4. scim関連のダウングレード(scim-1.4.7からscim-1.4.4へのダウングレード,scim-anthy-1.2.4からscim-anthy-1.2.0へのダウングレード )
    Vine Linux 4.2付属のscim-1.4.7のままNotes 8で日本語入力しようとすると以下の現象となります。
    (1)「半角/全角」キーを押してもSCIMツールバーが表示されません。
    (2)日本語入力ができません。
    gedit等からノーツ文書に日本語のコピー&ペーストはできます。
    尚、Lotus Documentの場合はSCIMツールバーは表示されませんがローマ字入力するとポップアップウィンドウ上に入力文字が表示されます(但し、変換確定した文字は表示されません)。

    この対策のためにVine Linux 4.2付属のscim-1.4.7をCentOS 5付属のscim-1.4.4に置き換えます。
    ※Vine Linux 4.1付属のscim-1.4.4に置き換えても他のパッケージ(gtk2)との組み合わせが影響してNotes 8での日本語入力はできません。

    Vine Linux 4.1, Vine Linux 4.2, CentOS 5のパッケージバージョンは下表の通りです。
    パッケージVine Linux 4.1Vine Linux 4.2CentOS 5
    scim1.4.41.4.71.4.4
    scim-anthy1.2.01.2.41.2.0
    gtk22.8.202.8.202.10.4

    それではscim関連のダウングレード手順を紹介します。
    CentOS 5のインストールDVDをセットし、次のようにコマンドを実行していきます。
    (パッケージの依存関係解決のため一見scim/anthyに関係の無さそうなパッケージ操作も含まれています)

    # rpm -qa|grep -e scim -e anthyで以下の表示となることを事前確認します。
    scim-bridge-0.4.13-0vl2
    scim-anthy-1.2.4-0vl0
    scim-bridge-gtk-0.4.13-0vl2
    anthy-7900-0vl3
    scim-1.4.7-0vl0.1
    # mount /dev/cdrom /mnt/cdrom
    # cd /mnt/cdrom/CentOS
    # rpm -e scim-anthy
    # rpm -e scim-bridge-gtk
    (「スクリプトの実行に失敗しました。終了ステータス 127」エラーとなった場合は「rpm -e --noscripts scim-bridge-gtk」を試して下さい)
    # rpm -e scim-bridge
    # rpm -e scim
    (「スクリプトの実行に失敗しました。終了ステータス 127」エラーとなった場合は「rpm -e --noscripts scim」を試して下さい)
    # rpm -e kasumi
    # rpm -e anthy
    # rpm -Uvh gtk2-engines-2.8.0-3.el5.i386.rpm gtk2-2.10.4-16.el5.i386.rpm ※gtk2系自体は必須のアップグレードで2個のrpmを同時指定します。
    (gtk2 >= 2.9.1-2はscim-libs-1.4.4-39.el5.i386のインストールに必要となります)
    # rpm -ivh anthy-7900-4.el5.i386.rpm
    # rpm -ivh kasumi-2.0.1-1.1.fc6.i386.rpm
    # rpm -ivh scim-libs-1.4.4-39.el5.i386.rpm ※scim-libsはVine Linux 4.2には存在しないパッケージです(scim-libsの構成ファイル一覧)。
    # rpm -Uvh --force chkconfig-1.3.30.1-1.i386.rpm
    # rpm -ivh --nodeps scim-1.4.4-39.el5.i386.rpm ※ここでの--nodepsはxorg-x11-xinitとの依存性を無視させるための指定です。
    # rpm -ivh scim-bridge-0.4.5-7.el5.i386.rpm ※scim-bridgeは必須ではありません。
    # rpm -ivh scim-bridge-gtk-0.4.5-7.el5.i386.rpm ※scim-bridge-gtkは必須ではありません。
    # rpm -ivh scim-anthy-1.2.0-5.el5.i386.rpm
    # rpm -qa|grep -e scim -e anthyで以下の表示となることを確認します。
    anthy-7900-4.el5
    scim-1.4.4-39.el5
    scim-bridge-0.4.5-7.el5
    scim-anthy-1.2.0-5.el5
    scim-libs-1.4.4-39.el5
    scim-bridge-gtk-0.4.5-7.el5
    # cd
    # umount /mnt/cdrom
    # reboot ※ここで念のため再起動します。
    再起動後もgeditでの日本語入力は問題ありません。
    ※上記手順ではscim-bridge, scim-bridge-gtkをインストールしましたがそれらがなくてもfirefox(Bon Echo)での日本語入力は問題ありません。

  5. gtk2系変更の影響対策
    scimのダウングレード操作の一環でgtk2系自体はアップグレードせざるを得ませんでした。
    このgtk2系自体の変更により以下の現象が発生します。
    (1)GDMログイン画面の左側に縦に縮小表示される言語アイコン(/usr/share/gdm/themes/Vine/language.svg)等のsvgファイルが表示されなくなります。
    実際には「/usr/share/gdm/themes/Vine/language.svgの画像ファイルの形式を認識できませんでした。」メッセージが表示されます。
    それらのアイコンが表示できない場合、GDMログイン画面の左下に「オプション」メニューが表示されるためそこから言語選択等は可能です。
    つまり実害はないのですが以下の暫定対策を実施してアイコン表示できるようにした方がベターです(アイコンは縮小表示されなくなりますが...)。
    # cp /usr/share/gdm/themes/Vine/language.svg /usr/share/gdm/themes/Vine/language.svg.org
    # cp /usr/share/gdm/themes/Vine/session.svg /usr/share/gdm/themes/Vine/session.svg.org
    # cp /usr/share/gdm/themes/Vine/system.svg /usr/share/gdm/themes/Vine/system.svg.org
    # cp /usr/share/gdm/themes/Vine/quit.svg /usr/share/gdm/themes/Vine/quit.svg.org

    # gimp /usr/share/gdm/themes/Vine/language.svg&
    gimpではファイル名にsvgという拡張子を指定しながらもファイル形式はgifを選択して、そのgif形式の「language.svg」を上書き保存します。
    下記についてもgimpで同様の操作を行います。
    /usr/share/gdm/themes/Vine/session.svg
    /usr/share/gdm/themes/Vine/system.svg
    /usr/share/gdm/themes/Vine/quit.svg

    (2)ログイン直後に「[gnome-help.pngが見つかりませんでした。」メッセージが出る場合がありますが無視して構いません。

    (3)デスクトップの「背景の変更」では「'/usr/share/backgrounds'の情報を取得する際にエラー」というメッセージが出ます。
    これはCentOS 5のgtk2を導入したことによって、/usr/bin/gnome-background-propertiesが参照するディレクトリが
    /usr/share/backgroundsに変わってしまったためです。
    この対策は「ln -s /usr/share/pixmaps/backgrounds /usr/share/backgrounds」の実行で済みます。

  6. Lotus Notes 8の導入

    上述したscim関連のダウングレードはLotus Notes 8の導入後に実施しても構いません。


  7. Lotus Notes 8の設定
    rootユーザからログアウトします。
    一般ユーザでログインし直します。この時、言語の選択で「日本語 (UTF-8)」を選択しておきます。
    まずLotus Notes 8を最初に起動して初期設定を行います。
    ※Lotus Notes 8はrootユーザでは利用できません(rootユーザでのLotus Notes 8起動はエラーとなります)。


  8. Lotus Notes 8の利用


  9. Vineのテーマ適用
    Lotus Notes 8 on Linuxのプロセスの多くはJavaで動作しています。
    そこでVineのデスクトップテーマがNotes 8のウィンドウデザイン(装飾)に継承(反映)されるかどうかを確認してみました。
    結論から言うとデスクトップテーマは問題なくNotes 8のウィンドウデザインに反映されます。

  10. アプリケーションの追加インストールについて
    いくつかのパッケージをCentOS 5から導入したことで「apt-get install」は使用できなくなります。
    例えば「apt-get install openoffice.org」を実行すると以下のエラーが表示されます。
    パッケージリストを読みこんでいます... 完了
    依存情報ツリーを作成しています... 完了
    以下の問題を解決するために 'apt-get --fix-broken install' を実行する必要があるかもしれません:
    以下のパッケージは解決できない依存関係を持っています:
      libstdc++: 廃止: libstdc++3
    libstdc++3: 廃止: libstdc++
    openoffice.org: 依存: libicui18n.so.34 依存: libicule.so.34 依存: libicuuc.so.34 依存: libwpd-0.8.so.8 scim: 依存: xorg-x11-xinit (>= 1.0.2-5) それをインストールすることができません
    E: 未解決の依存情報です。'apt-get --fix-broken install' を実行してみてください( 又は解決パッケージを明示してください)。
    ここで「apt-get --fix-broken install」を実行するとkasumi,libstdc++,scim-libsが削除されることになります。
    ※「apt-get --fix-broken install」を実行する場合は必要に応じて2回連続実行します。
    ※このlibstdc++は/usr/lib/libstdc++.so.6を含むlibstdc++-4.1.1-52.el5のことですが、代りにlibstdc++34(/usr/lib/libstdc++.so.6を含む)がインストールされます。
    そうするとNotes 8で日本語入力もできなくなります(geditやfirefoxでの日本語入力は可能です)。
    このため「apt-get --fix-broken install」の実行は見合わせます。

    apt-getではアプリケーションの追加インストールができないため例えばopenoffice.orgのインストールは以下の手順で行います。
    (1)下記のパッケージをVine Linuxのダウンロードサイトディレクトリ(pub/Linux/Vine/VinePlus/4.2/i386/RPMS.plus/)からダウンロードします。
    libicu34-3.4.1-0vl1.i386.rpm
    libgsf-1.14.3-0vl1.i386.rpm
    libwpd-0.8.9-0vl0.1.i386.rpm
    libgsf-1.14.3-0vl1.i386.rpm
    libwpd-0.8.9-0vl0.1.i386.rpm
    openoffice.org-2.0.4-0vl0.3.i386.rpm
    (2)以下のコマンドを実行します。
    # rpm -ivh /home/amber/libicu34-3.4.1-0vl1.i386.rpm
    # rpm -ivh /home/amber/libgsf-1.14.3-0vl1.i386.rpm
    # rpm -ivh /home/amber/libwpd-0.8.9-0vl0.1.i386.rpm
    # rpm -ivh /home/amber/libgsf-1.14.3-0vl1.i386.rpm
    # rpm -ivh /home/amber/libwpd-0.8.9-0vl0.1.i386.rpm
    # rpm -ivh /home/amber/openoffice.org-2.0.4-0vl0.3.i386.rpm

    [アプリケーション]−[オフィス]−[OpenOffice.org Writer (ワープロ)]でWriterを起動します。
    インラインでの日本語入力も問題なく行えます(Writerでの日本語入力の様子)。

  11. WineでのWindows版ノーツクライアント
    Vine Linux 4.2にWineを導入してWindows版ノーツクライアントの実行可否を確認してみました。