UML実行環境構築(Vine Linux 3.1編)

UML(User Mode Linux)はLinux上で別のLinuxをゲストOSとして実行させるオープンソフトウェアです。
UMLは仮想マシン環境ではないためVGAカードなどのエミュレート機能はありませんがネットワーク環境を簡単に構築できるのが大きな特徴です。

ここではVine Linux 3.1をUML環境のホストOSとして利用し、更にUML環境のゲストOSとしてもVine Linux 3.1を使用するという単純構成のUML環境を構築する手順を紹介します。
尚、公開版Debian用仮想パーティションイメージファイルをそのまま利用してみたいという方はこちらをご覧下さい。


１．ホストOS側でのUML環境の構築

UML環境を構築する方法にはいくつかの種類がありますがここでは最も単純なrpmパッケージ利用で行うことにします。

Vine Linux 3.1(Kernel 2.4.27)でも使用できるUMLのrpmパッケージはuser_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpm (1.7MB)です。
このrpmファイルはhttp://user-mode-linux.sourceforge.net/dl-sf.htmlから辿れるhttp://sourceforge.net/project/showfiles.php?group_id=429からダウンロードできます。


user_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpmに含まれるファイルは以下のコマンドで確認できます。
# rpm -qlp user_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpm

[user_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpmに含まれるファイル一覧]
/usr/bin/jailtest
/usr/bin/linux ※UMLのゲストOS起動コマンドです。
/usr/bin/tunctl
/usr/bin/uml_mconsole
/usr/bin/uml_moo
/usr/bin/uml_net
/usr/bin/uml_switch
/usr/lib/uml/config
/usr/lib/uml/modules-2.2.tar
/usr/lib/uml/modules-2.4.tar ※UMLのゲストOSの/lib/modulesに格納すべきカーネルモジュール群のtarファイルです。
/usr/lib/uml/port-helper


ホストOS側でのUML環境の構築は以下の手順で行います。

• /dev/net/tunの存在確認
  UMLでは基本的にTUN/TAPドライバを使ったネットワークを利用します。
  このためホストOS側に/dev/net/tunデバイスが存在することをまず確認します。
  # ls -l /dev/net/tun
  crw------- 1 root root 10, 200 May 16 2004 /dev/net/tun
  
  またroot以外のユーザでもUMLでTUN/TAPドライバを使ったネットワークを利用するためには以下のようにパーミッション変更を実施しておきます(任意)。
  # chmod 666 /dev/net/tun
  # ls -l /dev/net/tun
  crw-rw-rw- 1 root root 10, 200 May 16 2004 /dev/net/tun
  
  
• user_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpmのインストール
  以下のコマンドでインストールします。
  # rpm -ivh user_mode_linux-2.4.19.5um-0.i386.rpm
  
  
• ゲストOSの/lib/modulesに格納すべきカーネルモジュールの展開
  # cd /usr/lib/uml
  # tar xvf modules-2.4.tar
  これで/usr/lib/uml/lib/modules/2.4.19-5umディレクトリが作成されます。
  この2.4.19-5umディレクトリは後でゲストOS側の/lib/modulesにコピーします。
  
  

• (1)QEMU環境でのVine Linux 3.1のインストール
  まずqemu-img.exeを使用して仮想ディスクイメージファイル(例：vine31uml.img)を作成します。
  その仮想ディスクはデスクトップ環境も利用できるように2GB(2048MB)のサイズにします。
  この場合QEMU/UML以外での様々な環境でもその仮想ディスクが利用できるようにraw(非圧縮)タイプの仮想ディスクにし、swapパーティションは準備しないようにします。
  尚、Vine Linux 3.1の最小インストール後にデスクトップ環境用の個々のパッケージをapt-getでインストールするのであれば1GBでも間に合いますが個々のパッケージ選択は少し煩雑となりますので2GBの仮想ディスクにVine Linux 3.1をフルインストールするのが簡単です。
  
  QEMUでのVine Linux 3.1インストールのポイントは以下の通りです。
  
  
  • ディスクパーティション設定
    /dev/hdaにはswapパーティションは確保せずに、一つのLinuxパーティションを最大サイズ分割り当てます。
    
    
  • lilo設定
    lilo設定はデフォルトのままで構いません。
    
    
  • ネットワーク設定
    ・IPアドレス：10.0.2.x
    ・ネットマスク：255.255.255.0
    ・ネットワーク：10.0.2.0
    ・ブロードキャスト：10.0.2.255
    ・ホスト名：任意(例：vine31uml)
    ・ゲートウェイ：10.0.2.2(固定)
    ・DNSサーバアドレス：10.0.2.3(固定)
    
    
  • rootパスワードの設定と一般ユーザアカウントの追加
    rootパスワードを設定すると共に一般のユーザアカウントを最低1個定義しておきます。
    ここでの一般のユーザアカウント(ダミーアカウント)定義は必要です。
    UMLでVine Linux 3.1をゲストOSとして起動するとコンソールにテキストログインプロンプトが表示されずログインができなくなるためゲストOSを操作できなくなります。
    そこでダミーの一般ユーザアカウント(testユーザ等)を予め作成しておき、UML環境ではsshでゲストOSに一般ユーザでログインしてからrootに切り替えてroot権限での必要な操作を行います。
    
    
  • パッケージグループの選択
    ここでは「フルインストール」(約1.7GB)を選択します。
    
    
  • Xの設定
    UMLでのデスクトップ操作は基本的にVNCを利用しますのでここでのXの設定内容はあまり重要ではありませんがとりあえず800x600x24にしてグラフィカルログインを有効にしておきます。
    
    
  
  
• (2)VNCサーバの導入と自動起動設定
  Vine Linux 3.1インストール後はそのVine Linux 3.1を起動し、まずrootでviでの自動バックアップファイルの作成抑止を実施します。
  ファイルによってはバックアップファイルがLinux動作に影響を与えることがあるため(例：ifcfg-eth0のバックアップファイル)、viにて~/.exrcファイルを作成します。
  ~/.exrcファイルの内容は「set nobackup」だけです。
  
  さてVNCサーバは以下のコマンドでインストールします。
  # apt-get update
  # apt-get install vnc-server
  ここで念のためVNCサーバが起動できることを確認しておきます。
  # vncserver :1
  VNCサーバ接続用パスワードを適当に指定します。
  尚、ここではVNCサーバの起動確認だけが目的ですのでVNCクライアントからの接続テストは行う必要はありません。
  
  次にVNCサーバをinetd経由で自動起動する設定を以下の手順で行います。
  具体的な設定内容はVNC接続要求がきた時点でVNCサーバをinetd経由で自動起動してグラフィカルログイン画面を表示(内部的なXDMCP接続)するためのものです。
  
  
  • XDMCP接続の有効化
    GNOMEのアプリケーションメニューの[システム・ツール]−[ログイン画面の設定]でXDMCPを有効にします。
    
    
  • /etc/servicesへの行追加
    /etc/servicesに下記1行を追加します(とりあえず1個のスクリーン分だけ指定しておきます)。
    vncサービス名 5901/tcp
    ※vncサービス名として適当な名称を指定します(例：vncserver1)。
    
    
  • /etc/inetd.confへの行追加
    /etc/inetd.confの最後に下記1行を追加します(長いですが1行で指定します)。
    vncサービス名 stream tcp nowait nobody /usr/sbin/tcpd /usr/bin/Xvnc -inetd -query localhost -once -geometry 800x600 -depth 16 securitytypes=none
    【補足】
    ※1 vncサービス名は/etc/servicesに指定した値(例：vncserver1)と同じにします。
    ※2 「-query localhost」指定：VNC接続時は自動的にXDMCP接続となってグラフィカルログイン画面を表示します。
    ※3 「-once」指定：VNC接続が切れるごとにVNCサーバを再度自動起動するようになります。
    ※4 「securitytypes=none」指定：VNC接続パスワードの要求がこなくなります(VNCをXDMCP接続型にするするためVNC接続パスワード要求を出さないようにしても問題ありません)。
    
    
• (3)日本語入力パッケージ(Anthy,uim,uimアプレット)のインストール
  UML環境ではCanna + kinput2での日本語変換入力がうまくいかないようです。
  そこで別の日本語入力パッケージ(Anthy,uim,uimアプレット)を以下のコマンドでインストールします。
  # apt-get update
  # apt-get install anthy uim uim-applet ※インストールしただけではAnthy/uimは有効にはなりません。
  apt-get installで/var/cache/apt/archivesにキャッシュされたrpmファイル群は不要なので「apt-get clean」で削除しておきます。
  
  
• (4)日本語入力環境の変更
  ユーザアカウントごとに下記を実施します。
  #(または$) setime anthy
  またGNOMEパネルの右クリックメニューから[パネルに追加]−[ユーティリティ]−[uimアプレット]を実行し、GNOMEパネルにuimアプレットを表示させます。
  uimアプレットは現在どのモードかを示すアプレットでShift+Spaceキーを押すと「あR」と表示されます。
  尚、AnthyはXウィンドウ再起動後に有効となりkinput2は自動起動されなくなり、その代りAnthy,uimが自動で利用できるようになります。
  
  
• 再起動確認
  上記設定後、QEMUでのVine Linux 3.1を再起動し問題なく動作することを確認しておきます。
  
  

• 仮想パーティションイメージファイルのループバックマウント
  # mkdir -p /mnt/tmp
  # mount -o loop vine31umlhda1.img /mnt/tmp
  
  
• (5)ゲストOSの/etc/fstabの変更
  /mnt/tmp/etc/fstabの先頭のLABEL=/行を「/dev/ubd/0 / ext3 defaults 1 1」に変更します。
  
  
• (6)ゲストOSのネットワーク設定ファイルの変更
  QEMU環境では10.0.2.xを使用したuserモードネットワークを使用しましたがUML環境ではTUN/TAPドライバを使ったネットワークを利用します。
  そこでゲストOSの以下のネットワーク設定ファイルをホストOSのネットワーク環境にそのまま参加できるように変更します。
  例えばホストOSのIPアドレスが192.168.88.xxならゲストOSのIPアドレスを10.0.2.xから192.168.88.yyに変更します。
  
  
  • /mnt/tmp/etc/sysconfig/networkの変更箇所
    ・GATEWAY(ホストOSの設定値に一致させる)
    
    
  • /mnt/tmp/etc/sysconfig/network-scripts/ifcfg-eth0の変更箇所
    ・BROADCAST(ホストOSの設定値に一致させる)
    ・IPADDR(ホストOSと同じ体系のIPアドレスを指定する)
    ・NETMASK(ホストOSの設定値に一致させる)
    ・NETWORK(ホストOSの設定値に一致させる)
    
    
  • /mnt/tmp/etc/resolv.confの変更箇所
    ・nameserver(ホストOSの設定値に一致させる)
    
    
• (7)ゲストOSへのカーネルモジュールのコピー
  ホストOS側で解凍したUML用カーネルモジュールをゲストOS側にコピーします。
  
  具体的には以下のコマンドでUML用カーネルモジュールをゲストOS側にコピーします。
  # cp -a /usr/lib/uml/lib/modules/2.4.19-5um /mnt/tmp/lib/modules
  # chown -R root.root /mnt/tmp/lib/modules/2.4.19-5um
  ※このchownはブート時の「Finding module dependencies: depmod: /lib/modules/2.4.19-5um/kernel/drivers/net/bonding.o is not owned by root」のメッセージ回避用です。
  
  
• 仮想パーティションイメージファイルのアンマウント
  # umount /mnt/tmp
  
  

• ゲストOSの起動
  # linux mem=256M ubd0=vine31umlhda1.img eth0=tuntap,,,IPアドレス
  ここでのIPアドレスはホストOSのIPアドレスです。
  
  Kudzu画面ではすべて「Do Nothing」応答で構いません。
  
  
• ゲストOSのコンソール
  
  
• WindowsからゲストOSへのssh接続
  
  
  
  
• ホストOSからゲストOSへのVNC接続
  
  
  • VNCクライアントの起動
    ホストOSでのVNCクライアント起動は「vncviewer &」で行います。
    
    
  • vncviewerでのオプション設定
    vncviewerの[Options]ボタンを押してColour LevelをLow(64 colours)からFull(all available colours)に変更します。
    
    
  • 接続先の指定
    接続先は「ゲストOSアドレス:1」で指定します。
    
    
    
    
  • GUIのログイン画面
    
    
    
    
  • VNCでのデスクトップ操作
    
    
    
    Anthy + uimによる日本語変換入力も問題なく行えます。
    
    
  
  
• ホストOSにネットワーク接続されているWindowsマシンからのゲストOSデスクトップ操作
  
  
  
  
• その他
  UML環境でのゲストOSブート時の警告メッセージが気になる場合は必要に応じて下記を実施して下さい。
  # chkconfig --level 345 acpid off
  # chkconfig --level 345 keytable off
  # chkconfig --level 345 postfix off
  尚、gpmを無効にするとKudzu画面が正しく表示されない場合があるようですのでgpmはonのままにしておいた方がよいかも知れません。
  
  

• Debian-3.0r0.ext2.bz2の解凍
  # bunzip2 -kv Debian-3.0r0.ext2.bz2 (-kは元のbz2圧縮ファイルを削除しないオプションです)
  
  
• UMLでのDebianブート
  # linux ubd0=./deb30.diff,Debian-3.0r0.ext2 eth0=tuntap,,,ホストIPアドレス
  ※Debian-3.0r0.ext2には空きが無いためdeb30.diffという差分ファイル作成・利用を指定しています。
  
  [ブートメッセージ]
  tracing thread pid = 7383
  Linux version 2.4.19-5um (jdike@uml.karaya.com) (gcc version 2.96 20000731 (Red Hat Linux 7.1 2.96-81)) #2 Mon Sep 16 15:41:15 EDT 2002
  On node 0 totalpages: 8192
  zone(0): 8192 pages.
  zone(1): 0 pages.
  zone(2): 0 pages.
  Kernel command line: ubd0=./deb30.diff,Debian-3.0r0.ext2 eth0=tuntap,,,ホストIPアドレス root=/dev/ubd0
  Calibrating delay loop... 2010.86 BogoMIPS
  Memory: 30192k available
  ((途中略))
  Debian GNU/Linux 3.0 (none) ttys/0
  
  
• ログイン
  (none) login: rootでログイン(パスワードはありません)
  # uname -srm
  Linux 2.4.19-5um i686
  # ls /lib/modules/
  2.4.18-37um ※カーネルバージョンと不一致ですが問題なく動作します。
  # cat /etc/fstab
  /dev/ubd/0 / ext2 defaults 0 1
  proc /proc proc defaults 0 0
  # cat /etc/mtab
  /dev/ubd/0 / ext2 rw 0 0
  proc /proc proc rw 0 0
  

  # df
  Filesystem           1k-blocks      Used Available Use% Mounted on
  /dev/ubd/0               59386     59384         0 100% /
  

• rootのパスワード設定
  # passwd
  Enter new UNIX password:xxxxxx
  Retype new UNIX password:xxxxxx
  
  
• ネットワークの設定
  # echo deb30uml > /etc/hostname
  # vi /etc/network/interfaces
  [interfacesの内容]
  auto l0
  iface l0 inet loopback
  
  auto eth0
  iface eth0 inet static
  address ゲストIPアドレス
  netmask 255.255.255.0
  gateway ホストOSと同じゲートウェイアドレス
  
  # vi /etc/resolv.conf
  nameserver ホストOSと同じDNSサーバアドレス
  
  # vi /etc/hosts
  [hostsの内容]
  127.0.0.1 localhost localhost.localdomain
  ゲストIPアドレス deb30uml
  
  # shutdown -h now
  
  
• UMLでのDebian再起動
  linux ubd0=./deb30.diff,Debian-3.0r0.ext2 eth0=tuntap,,,ホストIPアドレス
  
  Debian GNU/Linux 3.0 deb30uml ttys/0
  
  
• ログイン
  deb30uml login: root
  Password:xxxxxx
  # uname -a
  Linux deb30uml 2.4.19-5um #2 Mon Sep 16 15:41:15 EDT 2002 i686 unknown
  
  
• ネットワーク利用
  # ifconfig eth0 ゲストIPアドレス
  # ping -c 2 www.yahoo.com
  PING www.yahoo.com (66.94.230.36): 56 data bytes
  64 bytes from 66.94.230.36: icmp_seq=0 ttl=52 time=126.8 ms
  64 bytes from 66.94.230.36: icmp_seq=1 ttl=52 time=108.3 ms
  
  --- www.yahoo.com ping statistics ---
  2 packets transmitted, 2 packets received, 0% packet loss
  round-trip min/avg/max = 108.3/117.5/126.8 ms