SLS 1.05
1994年4月5日にSLS 1.05(Softlanding Linux System version 1.05)がリリースされました。
SLSはカナダのSoftlanding Software社のLinuxディストリビューションでSoftlanding Software固有の機能追加もなされています。
SLS 1.05がLinux Kernel 1.0を採用しているという意味では実質的なSLS 1.0とも言えます。
尚、同じSLS 1.05でも入手時期によってカーネルのビルド時期は異なるようです。
今回のSLS 1.05の主な特徴は以下の通りです。
- Linux Kernel 1.0(1994年3月14日リリース版)の搭載。
- XFree86 2.0(1993年10月リリース版)の搭載。
- デバイスドライバ等のモジュール化。
- SLSシステム管理を容易にするメニューシェルツールMesh(Menu Shell)の装備(Meshは後述)。
Meshはメニュー操作でのファイル処理機能、ファイルブラウザ機能、シェルコマンドの直接実行機能を持っています。
- tcshとpdkshシェルの追加。
Linux Kernel 1.0採用ということでシステムの安定性が向上し、更に便利な管理ツール(Mesh)も付いているためSLSユーザが今後増えるように思われます。
また導入(インストール)も簡単なため手軽にUNIX並みの環境を構築して利用することができます。
※SLS 1.05にはメールサーバ、TELNET/FTP/NFSサーバ、ネームサーバ等も含まれているためサーバ用途にも十分利用可能です。
ここではSLS 1.05の導入と利用環境について簡単に紹介します。
(1)インストールの流れ
- イントール用ブートディスク(FD)の作成
- イントール用ブートディスクからのブート
softland login : プロンプトで「install」と入力してEnterキーを押します。
- インストール元の選択/指定
インストール元をFD, HDD, CD-ROM等の中から選択します。
※FDからのインストールでは30枚程のFDを使用します。
「Install from Hard Disk」を選択した場合は、画面の指示に従ってそのパーティション、ファイルシステムタイプ、ディレクトリを指定します。
この場合ファイルシステムタイプとしてはminix, ext2, msdosのいずれかを指定できます。
- ディスクセットアップ
- パーティションの作成
- Linuxパーティションの指定
この時点でext2形式でフォーマットされます。
- Swapパーティションの指定
※ルートファイルシステム中にswapファイルを作成するオプションも用意されています。
- インストールタイプの選択
今回は「Install everything (100 Meg)」を選択しました。
- パッケージ(tgz形式ファイル)のインストール実行。
- SLS起動FDの作成
インストーラは安全性確保のためにMBR(Master Boot Record)に直接liloを作成することはしません。
そのためこの時点で強制的にSLS起動FDを作成する指示が出ます。
- モデムの設定
- LILOの設定
基本的にliloのインストール先はルートパーティション(通常は/dev/hda1)となります。
尚、DOSをブートする設定もこの時点で行えます。
liloコマンドが実行されると「Added Linux」と表示されます。
- ホスト名の指定
- ネットワークの設定
IPアドレス、ネットワークアドレス、ルータアドレス、ドメイン名、DNSサーバアドレス等を指定します(今回はホスト名としてsls105を指定)。
ネットマスクの指定はできませんがネットワーク起動スクリプト(/etc/rc.net)中には「255.255.255.0」がデフォルトで設定されます(rc.netというファイルはMINIXにもあります)。
そのデフォルトネットマスクはインストール後に必要に応じて変更します。
当該システムをDNSサーバにするかどうかの問い合わせに対してyを応答するとDNSサーバ構築のための/etc/hostcvt.buildがこの時点で実行されます。
- ファイルパーミッションの自動設定
- インストール完了
rootユーザのパスワード設定なしにインストールが完了します。
- インストール直後の設定ファイルの内容紹介
以下の設定ファイルはインストール時には内容が変わらないデフォルト状態の設定ファイルです。
- インストール後のブート
SLS起動FDからブートします(この時点ではHDDからのブートはできません)。
NE2000互換カードは自動認識されます。
- テキストログインと初回ブート時の設定
rootユーザのパスワード設定はされていませんのでパスワードなしでrootでログインできます。
ログイン後は、まずsyssetupでマウス種別とXサーバの設定を行います。
必要に応じてXFree86の設定ファイル(/usr/X386/lib/X11/Xconfig)の中を直接編集します。
続いて、liloをMBRにインストールしてHDDからブートできるようにします。
具体的には/etc/lilo.conf中の「boot=/dev/hda1」を「boot=/dev/hda」に変更して下記を実行します。
# lilo
最後にルータ設定の有効化を行います。
インストール中に指定したルータアドレス(ゲートウェイアドレス)は/etc/hostsの中で「#192.168.0.1 router」というようなコメント行になっています。
その#を削除してルータ設定を有効にします。
- HDDからのブート
ここでSLS起動FDを取り出し、HDDからリブートします。
- インストールパッケージ一覧
インストールしたパッケージ一覧はこちらです。
(2)Xウィンドウ環境
startxで起動されるデフォルトのウィンドウマネジャはFvwmです。
※Olvwmも付属しています。
- Fvwmの画面
Fvwm画面の一番左下にある横長のボタンパネルはFvwmのGoodStuffと呼ばれるもので一種のラウンチャの働きをします(GoodStuff:Ver 1.21c)。
実サイズの画像はこちらです。
- Fvwmロゴ
Fvwmのロゴ(背景透過のロゴ画像)は/usr/lib/X11/fvwm/FvwmBannerプログラムで表示可能です。
- Xfigアイコン
Xfigをアイコン化した時の画像です。
- ルートウィンドウのFvwmメニュー(左クリックメニュー)
- ルートウィンドウの右クリックで表示されるウィンドウリスト
- スクリーンセーバ
FvwmのScreensaverメニューから「Qix」を選択して表示させてみました。
このアートはとてもきれいです。
xdmコマンドでGUIログイン画面にすることが可能となります(下図はユーザ/パスワードの指定部分です)。
(3)ネットワーク接続テスト
- ネットワーク設定ファイル
/etc/hostsにはIPアドレスとホスト名の対応関係だけでなくルータアドレスも設定します。
/etc/resolv.confにはDNSサーバのアドレスを設定します。
ネットワーク設定関連ファイルの所在確認等は以下のコマンドで行えます(下記はネットワークアドレス体系が192.168.0.0の例)。
# find /etc/* | xargs grep 192 2>/dev/null
- ifconfigでの表示とpingテスト
(4)telnet/ftpサーバ
telnetサーバ、ftpサーバは共にinetd経由での非常駐サービスプログラムとして動作します。
rootユーザでlocalhostにftpとtelnetしてみました。
(5)Mesh
Mesh(Menu shell)は柔軟なSLSシステム管理ツールです。
- コンソールでのファイルブラウズとメニュー操作
ポップアップメニューの呼び出しはAlt + F(Filesの先頭FやDirsの先頭D等)で行います。
- シェルの実行
シェル中に&sを指定するとそれはファイルブラウズで現在選択しているファイルとして解釈されファイルパス指定の手間が省けます。
(6)主なアプリケーション
- Emacs 19.19.2(フォント/カラーオプションを指定して起動したEmacs画面)
Emacsではシェルモードも使用できます。
EmacsのBuffersメニューは次のようになっています。
- Joe 0.1.5(テキストエディタ)
- xfontsel
xfontselではSLS 1.05のXウィンドウで使用できるフォントのうち日本語フォントも表示確認できます。
- xfd
xfdはフォント表示を確認するツールです(サンプル)。
- Xfm
- gnuplot 3.5
gnuplotの出力をPostscriptファイルにしてGhostviewで表示させてみました。
- LaTex 2.09
LaTexは数式表示を得意とする文書作成ソフトです。
latexコマンドでTeXファイルをdviファイルに変換します。
$ latex test2.tex
このlatexコマンドでtest2.dviファイルが生成され、その内容はxdviコマンドで確認できます。
またlatexコマンドで作成したdviファイルはdvipsコマンドでPostScriptファイルに変換できます。
$ dvips test2.dvi -o test2.ps
ここで作成されたtest2.psをGhostviewで開いてズーム表示した例はこちらです。
- Xfig
Xfigは一種のDTPソフトとしても活用できる便利なドローソフトです。
※Linux環境導入前はUNIXワークステーションでドローソフトがよく利用されていました。
- Picasso 3.8
Picassoはidraw感覚で使用できるオブジェクト指向の図形描画ツールです。
Picassoでは線、多角形、文字だけでなく画像も扱えるようになっています(PicassoのHelp文言)。
- bitmap
bitmapはビットマップ画像の編集ソフトです。
- Xspread 2.1
Xspreadはsc(spreadsheet calculator)ベースの表計算ソフトでscで保存したファイルを操作したりグラフ表示も可能です。
使用方法はDOS版のLotus 1-2-3に似ています。
- コンソール上のsc操作
セル値のコピー&ペーストは、まずM(markの意)コマンドでコピー対象セルにマーク付けし、コピー先セルをカレントにしてCコマンドでペーストできます。
尚、scファイルの保存はPコマンドで行います。
※セル属性を持たないsc形式以外の表形式での保存はWまたはTコマンドで行えます。
- scで保存したファイルのXspreadでの操作
実サイズの画像はこちらです。
- Xspreadでのグラフ表示例
- Perl 4.0(バージョン確認)
(7)X11プログラミング
SLS 1.05にはXFree86 2.0用Xクライアント開発用のヘッダファイル(Xlib.h等)が含まれています。
ウィンドウに図形と文字を表示するだけの簡単なX11プログラミングを行ってそのアプリケーションを実行してみました。
※文字列表示関数での座標指定値が適当なので文字列が緑の長方形から少しはみ出ています。
(8)システムコールトレース
SLSではUNIXでお馴染みのシステムコールトレースを行うstraceコマンドが使用できます。
(9)gawkコマンド
gawkコマンドはテキストファイル用文字列操作の強力なインタープリタ言語です。
awkはgawkのシンボリックリンクになっているためawkをそのまま使用できます。
- gawkの膨大なマニュアル
- awk(gawk)の使用例
psコマンドの実行結果に「bin」を含む行だけを抽出したり、ユーザアカウントファイルからユーザ名とuidをuid順に抽出したりしてみました。
※awk -F :の「:」は文字列のセパレータ(分離記号)を示しています。
(10)シャットダウンメッセージ
shutdownコマンドを投入すると「Why?」という問い合わせが出ます。
ここで応答したメッセージが各ログインユーザに通知されます。
That's all for today.(おしまい)