オフィス、個人宅問わず普段使用しているPCとちょっと離れた場所(PCの無い場所)からそのPCを遠隔操作したいというニーズもあるかと思います。
ノートPCなら気軽に持ち運べますが、デスクトップPCとなるとLANケーブルとかUSBディスクとかの周辺機器が多く接続されていると簡単にはそのPCを移動させるのは困難です。
そこで、今回はワイヤレスディスプレイアダプタとして使用するFire TV Stickに接続したモバイルモニタをそのデスクトップPCのメインディスプレイとして使用する例をご紹介致します。
尚、Fire TV Stickに接続するモニタとしてモバイルモニタを使用するのは小型モバイルモニタなら3A出力対応モバイルバッテリがあればFire TV Stickもそのモバイルバッテリから電源供給することでFire TV Stickとモバイルモニタの設置場所の自由度を高めることが可能となるからです。
勿論、コンセントのある場所でしかFire TV Stickを使用しないというのであればモバイルモニタではない大きな液晶ディスプレイを使用しても構いません。
Bluetoothタイプ
BluetoothマウスとキーボードはFire TV Stick側から使用する機器です(デスクトップPCとペアリングさせておきます)。
デスクトップPCにBluetoothチップが内蔵されていない場合は外付けのBluetoothアダプタを接続してペアリングさせておきます。
(Bluetoothの代わりにUSB無線マウス/キーボードでも代用可能かと思います)
(3)液晶ディスプレイは1920x1080以上の解像度対応のものとします(今回は1920x1080の解像度で使用)。
(4)Wi-Fi子機
デスクトップPCとFire TV StickをMiracast接続するのでデスクトップPCへのWi-Fi子機接続は必須です。
デスクトップPCで有線LANを使用している場合はWi-Fi子機をPCに接続させるだけでOKで、Wi-Fi子機へのアクセスポイント設定は不要です。
Fire TV Stick側
(1)今回はFire TV Stick 4Kを使用しました。
(2)Fire TV Stickで使用するアプリは特にはなくFire TV Stickに最初から備わっている「ワイヤレスディスプレイアダプタ」機能だけを使用します。
ちなみにこの「ワイヤレスディスプレイアダプタ」機能はHDCPやNHKプラスには未対応であり音声のみのワイヤレス出力となります。
(3)モバイルモニタ:13インチ版のモバイルモニタで4K対応のものを使用しました。
(4)マウス/キーボードはデスクトップPCにペアリング済のBluetoothマウスとキーボードをPC側からFire TV Stick側に持ち運んで使用します(PCとの通信可能距離は10m以下)。
(5)OTGケーブルは特に必要ありません。
各デバイス側での準備
Fire TV Stick側
(1)リモコンのホームボタンを長押しして表示されるショートカットメニューから[ミラーリング]を選択します。
(2)[ミラーリング]を決定ボタンで押して「ディスプレイミラーリング」画面で待機させておきます。
「ディスプレイミラーリング」画面にはそのワイヤレスディスプレイアダプタとしてのデバイス名が「〇〇's Fire TV」と表示されます。
PC側
(1)Windows+Kキーで表示されるワイヤレスディスプレイアダプタ一覧から「〇〇's Fire TV」をクリックします。
(2)「キャスト」ダイアログでワイヤレスディスプレイアダプタ側を「拡張」モードにします(1920x1080となります)。
※ Fire TV Stickを使用したデュアルディスプレイモードで「複製」モードを使用しなかったのはFire TV Stick側が低解像度になったためです。
Fire TV Stick側モニタはサブモニタ(サブディスプレイ)となりアイコンのないデスクトップが表示されます。
ディスプレイ番号「2」の[これをメインディスプレイにする]にチェックを入れます。
これでFire TV Stick側が1920x1080の新たなメインディスプレイとなり、PC側液晶ディスプレイが新たなサブディスプレイとなります(「メインとサブのディスプレイ入れ替え」です)。
デスクトップアイコンは新たなメインディスプレイ側にのみ表示されるようになります。
PC接続ディスプレイ
Fire TV Stick接続モニタ
入れ替え前
入れ替え後
(新たなサブディスプレイ)
(新たなメインディスプレイ)
再びFire TV Stick側
「メインとサブのディスプレイ入れ替え」によりFire TV Stick側が新たなメインディスプレイになりましたのでデスクトップ操作がし易くなります。
例えばPC接続ディスプレイ側にあるウィンドウはFire TV Stick側からは見えませんが、それを見たい場合はAlt+Tabでメインディスプレイ側に表示される該当ウィンドウを選択してアクティブにしてからWindows+Shift+右(左)矢印キーでFire TV Stick側に移動されるので見えるようになります(デュアルディスプレイ環境におけるメインとサブの間でのウィンドウの通常の移動方法と同じです)。
Alt+Tab以外でもメインディスプレイにしか表示されないものも多種ありますがそれらはFire TV Stick側から見えるようになって便利です。
Fire TV Stick側での操作例
Fire TV Stick側からHyper-Vの仮想マシン(hvubt2310)を起動して使用してみました。
仮想マシンのOSはUbuntu 23.10から24.04にアップグレードしたものです。
ディスプレイ設定ウィンドウをメイン側に移しています。
Bluetoothマウスとキーボードを使用しての使用感はあたかもデスクトップPCを直接操作しているような感じとなります。
デュアルディスプレイの解除
デュアルディスプレイの解除方法は次の二通りあります。
Fire TV Stick側からのWindows操作による方法
Windows+Kキー(またはWindows+Pキー)で[切断]をクリックするとデュアルディスプレイが即時解除されます。
(1)Fire TV Stick側はホーム画面表示に戻ります。
(2)デスクトップPC側のディスプレイにはデュアルディスプレイの解除までメインとサブで動いていたアプリがデスクトップPC側のディスプレイにすべて集約されます。
Fire TV Stickのリモコン操作による方法
リモコンの中央の丸い「選択/決定」ボタンを押すと、「ディスプレイミラーリングを終了しますか?」という確認画面が表示されます。
[はい]を選択するとデュアルディスプレイが解除されます。
デュアルディスプレイ解除後のFire TV Stick側とデスクトップPC側の表示は上記と同じく次のようになります。
(1)Fire TV Stick側はホーム画面表示に戻ります。
(2)デスクトップPC側のディスプレイにはデュアルディスプレイの解除までメインとサブで動いていたアプリがデスクトップPC側のディスプレイにすべて集約されます。
「複製」モードを採用しなかった理由について
Fire TV Stickを使ったデュアルディスプレイ化で「複製」モードにしてPC側ディスプレイと同じ1920x1080の解像度でFire TV Stick側モニタにも表示されるのであれば「拡張」モードにして「メインとサブのディスプレイ入れ替え」を行う必要はありませんでした。
「複製」モードにした場合にどのような解像度になるかはFire TV Stickに接続したモバイルモニタの仕様にも依存するようです。
今回の環境ではPC側は1920x1080の解像度ですが「複製」モードにした場合のデフォルト解像度は1024x768となりました。
解像度が1024x768のデスクトップではHyper-V仮想マシンとしてのUbuntuを操作するには仮想マシンのデスクトップを表示できる部分が狭くなりかなり窮屈な感じとなります。
PC接続ディスプレイ
Fire TV Stick接続モニタ
デフォルト解像度の 1024x768での 表示のされ方
しかし今回の環境での「複製」モードでの最大解像度は1680x1050でしたのでその最大解像度への設定変更で何とかシングルディスプレイに近い解像度で使用できることも確認できました。
「複製」モードでの最大解像度の1680x1050を適用した場合のFire TV Stick側のデスクトップ;
とは言ってもFire TV Stick側でシングルディスプレイと同じ解像度(1920x1080)で操作できるようにしたかったため今回は「拡張」モードにして「メインとサブのディスプレイ入れ替え」を実施した次第です。
補足事項
(1)Fire TV Stickを使用してデュアルディスプレイモードにすると「メインとサブのディスプレイ入れ替え」後もデフォルトで音声はFire TV Stick側モニタから聞こえてきます(サウンド設定でPC[スピーカ]からのみ聞こえるようにすることも可能です)。
(2)Fire TV Stickを使用してデュアルディスプレイモードにするとadbLinkによる接続はできなくなります。
※ Amazonイーサネットアダプタを使用して有線LAN接続している場合でもデュアルディスプレイモード開始後は有線LANのIPアドレス指定でのadbLink接続はできなくなります。
(3)当方の環境ではデュアルディスプレイモードの解除後もadbLinkによる接続はできなくなりました(再起動後のadbLink接続はOKとなります)。
(4)今回使用したデスクトップPCとFire TV Stickを使用してspacedeskによるデュアルディスプレイモード化も可能で、かつ「メインとサブのディスプレイ入れ替え」もできますがFire TV Stick側の解像度が1024x768となって実用的ではありません。
(5)Fire TV Stickのワイヤレスディスプレイアダプタ機能を使用するとGalaxy S22等からのSmart ViewやワイヤレスDeXも使用可能となります。
(6)Fire TV Stick側のWindows上でS22のワイヤレスDeX for PCも実行してみました(DeX for PC上のYouTubeサウンドもFire TV Stick側から再生されます)。
※ DeX for PCではアプリ起動やウィンドウ移動等の操作はPC接続Bluetoothマウスで行います。
PCレスからのリモートPC操作の実用性向上について(マウス遅延対策)
今回はPCレス環境の一つとしてFire TV Stick側から実際のPCを遠隔(リモート)操作することを試してみました。
実はこの方法には大きな問題があって実用が難しいということがあげられます。
その大きな問題というのは「マウス遅延」という問題です。
「マウス遅延」の主たる症状は「マウスポインタが出てこない」とか「マウスポインタが途切れて(ジャンプして)表示される」など『マウス位置の確認が困難』ということです(所謂「マウス迷子」ですね)。
マウスポインタがスムーズに表示されないとWindowsのGUI操作は実用的にはなりません。
今回のExcel操作では目立った「マウス遅延」は発生しませんでしたが、一般的な「マウス遅延」では画面に表示されている目的のセルをマウスで選択してデータ入力すると実際には別のセルに入力されていたという現象も起こるようです。
Miracast利用のワイヤレスディスプレイを使ったデュアルディスプレイでの「マウス遅延」の主たる原因は「映像遅延」です(勿論デバイス同士の相性に起因する場合もありますが...)。
Fire TV StickはMiracastレシーバ専用のデバイスではなく、Fire TV Stickの「ワイヤレスディスプレイ」機能はあくまでもソフトウェアで実装されていますので画面データ(H.264)のデコード処理に時間がかかってしまいPC側から送信されるフレームデータを処理し切れなくなり「映像遅延」が発生します。
音声データやマウスデータは画面の映像データとは分離されているためMiracastレシーバの「映像遅延」は「音声遅延」や「マウス遅延」を引き起こしやすくなります。
平たく言えば映像データのデコード処理に時間がかかってしまうとマウスや音声データの処理が全体の流れに追い付かなくなって遅延が発生するということになります。
Fire TV Stickの「ワイヤレスディスプレイ」機能を使用してPC側にあるローカル動画を再生するとブロックノイズが顕著に表れるだけでなくマウスポインタ自体がどこかに隠れてしまってマウス操作ができなくなるという事態も発生し得ます。
そこで、Fire TV Stickの代わりに専用Miracastレシーバ(ガジェット)であるELECOM LDT-MRC03(2022.7.6リリース)を使用するとデコード処理が専用ファームウェアで行われるため高速で映像・音声・マウスの遅延は発生しませんでした。
更にELECOM LDT-MRC03では「マウス遅延」に備えてマウスポインタがピンク表示されます。
そのため通常のアプリウィンドウでは白背景上に白いマウスポインタが来るとマウスポインタの場所を確認しずらくなりがちですがピンク表示されるためマウスポインタの場所の視認性が高められています。